第2話 無題

著:タヲル ◆XHr7yPORVM  時刻:21:09:13

10 :タヲル ◆XHr7yPORVM :2010/08/20(金) 21:09:13 ID:XmQS70Nv0
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もうかなり昔の話し。
俺の知人、仮にMさんとしておきましょうか、彼の運転する車が猫を轢きました。
Mさん、ふだんからお酒好きでその日も仕事終わりに一杯ひっかけホロ酔いで帰宅しました。
あろうことか飲酒運転です。ダメな奴です。
轢いたあとすぐ車から降り、愛車のバンパーを調べ、タイヤのホイールを調べ、車高の低い改造車が無傷なのを確認すると「あ〜良かった」などとほざいてまた運転席に戻っていきました。
その時、降りた時は気付かなかったのですが、地面と車体とのわずかなすきまに猫がはさまって死んでいたそうです。ころんと首だけ出して。
イヌ好きの俺としてもゆるせない話し。バチ当たればいいんだと言ってやりました。相手はは先輩ですが。
お察しの通り、見事に当たりましたバチが。
まずMさんの愛車が常に獣臭くなりました。あのヤン車特有の芳香剤とあいまったなんともいえない臭さ。そして猫の鳴き声。
次に本人から匂いだし、身体を洗おうと服を変えようと無駄でした。しまいにはMさんのしゃべる語尾に「ニャア」が聞こえてくるようになり(ちょっとマヌケですが)、俺も含め周囲の人間が皆「これはおかしい」と思うまでになり、お祓いを薦める声もあがりました。


11 :タヲル ◆XHr7yPORVM :2010/08/20(金) 21:10:26 ID:XmQS70Nv0
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それでもMさんはどこ吹く風ってなもんで、あいかわらずお酒を飲んでは運転して帰り、カーステを大音量にし、今日はどこどこのオーデコロンで値段はこれこれ、ニャアと聞こえた?なんて飲み屋でお姉ちゃん相手のネタにする始末。
ですがついに事故をおこしました。愛車は完全に廃車。本人も鼻骨、鎖骨、肋骨、他もろもろを折る大怪我。死ななかったのが不思議なくらいです。
お見舞いに行きましたが、さすがに凹んでいましたね。半分以上は愛車に対してでしょうけれど。
しかしこれで終わりではありませんでした。
入院中もそうだったようですが、退院してからも異様な程物音に敏感になり、ひとの足音、物のぶつかる音、特に人の話し声にびくびくするようになりました。
仕事中(調理師です)もどこかうわのそらで、昼休みにふらっと居なくなり探しに行ったこともあります。
遂には我々のお店(飲食店)にまで影響が出始め、お客さんが異臭を訴えたり、猫の鳴き声がすると言われたり、もう笑い事ですまなくなりました。
はじめは冗談くらいにとらえていた調理長から、首に縄かけてでもお祓いをうけるさせるよう指示が出、精気を失ったMさんをとりあえず近くの神社に、それこそ引きずるように連れていきました。

12 :タヲル ◆XHr7yPORVM :2010/08/20(金) 21:11:42 ID:XmQS70Nv0
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俺は下っぱのボウズだったので一緒には行かせてもらえませんでした。行ったのはMさんと同期の先輩2人、仕事上の間柄を越えた仲の良い友人同士でもあります。

さて、ここから先は聞いた話し。当のMさんは何も覚えていないそうで、それはお祓いを受ける数日前から記憶が曖昧だったと話していました。
何の予備知識もなく、とにかく受付(神社で受付って)で神主つかまえて話ししようときめて敷地内に入ると、待ち受けていたように神主さんが立っていたそうです。特に何か訊かれる訳でもなく、話しを伺うからまず中に入りなさいと。
Nさん(同行した先輩)いわく、ここでようやく事の重大さに気づいたと。猫を轢き殺したMさんは、その時確かに、人の形をした猫だったと言いました。
四つ足で踏ん張り、敵意を剥き出しにして、唸り、歯を見せ、大人2人がかりで押さえ付け、時に怒鳴り、時に殴り付けるなどして奥に連れて行きました。もう一人の先輩は泣きながら羽交い締めにしたと言います。
Mさんを押さえつけながら、念仏なのか呪文なのか解らない儀式のようなものがうむもいわさず始まると、Mさんの抵抗は尚強くなった。Mさんだった獣は口から泡をふき、黒目が黄色く三角形になっていたそうです。
長い長いお祓いの後、おとなしくなって気を失ったMさんとぐったりとした先輩2人に、これまた疲労困憊・汗だくの神主さんがこう言ったそうです。

「今日はこのままここで一夜を明かしなさい。そうすればもう心配はいらない」



13 :タヲル ◆XHr7yPORVM :2010/08/20(金) 21:12:45 ID:XmQS70Nv0
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一夜明け、先輩2人をゆすりおこしたのはMさんでした。なんとなくわかるけど良くわからない、説明してほしいからまずタバコ吸えるとこ探そうよと。Nさん曰く、ぶっ叩いてもう一度眠らせたろうか、と。
早朝、神主さん曰く、Mさんには猫以外に何体も憑いていたらしく、そのどれもが猫によって引き寄せられた者であり、遅かれ早かれあの世に引っ張られていただろう。曾祖父とご先祖様に強く守られていなければ、事故の時に間違いなく死んでいただろう。
轢かれた猫はMさんを見ていたよと。車の下から見上げるように、後輪で更に踏みつけていった男を許すまじと。実は一匹だけではなく他にもう一匹親猫もその時轢いたはずだとも。

「無用な仏心はかえって呼び寄せてしまうものだけれど、必要以上の無体がこういう事態を引き起こしたのだと言うことを決して忘れてはいけない」

そうありがたい話を添えて、神主さんは最後に教訓として見ていきなさいと写真を何枚か出してきたそうです。
そこには、牛の顔をした女性が写っていたそうです。牛のような——ではなく牛だったとNさんは強調しました。

その後罰当たりなMさんは改心……するでもなくまた“やらかした”のですが、その話しはまた別の機会にでも。 おわり