第11話 最後の挨拶

著:菊 ◆wNcSpqKeBg  時刻:22:01:40

38 :菊 ◆wNcSpqKeBg :2010/08/20(金) 22:01:40 ID:o7f7I/ys0
「最後の挨拶」 ※ちょっと良い話系なので、嫌いな方はご注意を。

5年前の秋に亡くなった、祖父の葬式の時の話。

線香の煙を絶やさぬよう、寝ずの番をした妹と私は
朝食の後、お坊さんが読経に来るまでの時間、少し休むことにした。
私が居間でぼんやりとしていると、部屋で寝ているはずの妹が
携帯片手に激怒しながら居間へと下りてきた。
「だれ?!私の携帯にいたずら電話したの!」
睡眠を邪魔されたのが相当頭にきたらしい妹をなだめて
よくよく話を聞いてみると、
「ベットで横になっていたら携帯が鳴った。
 寝入りばなを邪魔されてイラッとしたが出た。
 それなのに相手は無言で切った。
 着信番号をみたら家の番号だったから怒りにきた」
と、いうことらしい。
履歴を確認すると、確かに実家の番号が表示されていた。
犯人は誰だと息巻く妹に、それまで静観していた父が声を掛けた。
「そんな悪戯できる訳がないだろ。 俺が今まで住職と電話してたんだ。
 お前たち、みんな見てただろう」
確かに、父は妹が怒鳴り込んでくるずいぶん前から、お坊さんと
電話で葬儀の打ち合わせをしていた。
回線が一つしかない我が家で、そんな悪戯ができる訳がない。
「お祖父さん、妹ちゃんにお別れ言いたかったんだねぇ
 妹ちゃんのこと、本当に可愛がっていたもんね」
伯母の一人がしみじみ言った。

この祖父、毎年お盆になると、明け方に玄関の戸を開けて家に帰ってくるらしい。
田舎とはいえ物騒なので、もう少し考えて欲しいと、実家の母がぼやいている。
 
【完】