第18話 祖母の話

著:影虎 ◆OTL/VNUGLY  時刻:22:29:08

70 :影虎 ◆OTL/VNUGLY :2010/08/20(金) 22:29:08 ID:Ep1s25II0
【祖母の話】

御年80歳である。
未だに畑を作り、車の運転にも問題の無いお婆さんだ。
そんな祖母の、奉公先で昔あったお話。

とても働き者の嫁さんがいた。そう裕福ではない家の娘だったが、望まれてその豪農へ嫁いだ。
でも、どうしてもどうしても子供が出来なかった。
そうこうしているうちに、その旦那が、嫁さんの妹に手を付けた。

妹の方にはすぐに子が出来た。妹は言った。
「あねさま許してけろ。おれは旦那の事好いてもいないが、くらしのためだ」と。
妹は性根がだらしなく、働く事を嫌った。
豪農の家の跡継ぎを産めば嫁としての地位は安泰、少なくとも食うには困らないと踏んだのだろう。

あねさまである嫁さんは、その身ひとつで追い出される事になった。
唯一の嫁入り道具だと言って、つましい暮らしの親が持たせてくれた大切な桐の箪笥も、
妹がどうしても欲しいと騒いだので、そのまま妹の手に渡るはずだった。

嫁さんは追い出される前の夜、首を吊った。
桐の箪笥の、一番上の持ち手に紐をかけて、座り込むようにして。
「いもうとがにくい はらのこもにくい」
そう手紙があったそうだ。

妹は新しい箪笥が欲しいと旦那にねだったが、買って貰えずにあねさまが死んだ箪笥をあてがわれた。
腹の子が生まれ出る前に妹はおかしくなってしまった。
最期には、「箪笥の中からあねさまが覗く」と言い続けて死んだそうだ。

祖母はそこまで話して泣いた。
首を吊った「あねさま」は、祖母の幼馴染だった。

【完】