第31話 無題

著:カイト ◆MbiMEa9Ics  時刻:ID:r0WQmdB7O

104 :カイト ◆MbiMEa9Ics :2010/08/20(金) 23:26:17 ID:r0WQmdB7O
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俺の通っていた小学校は、真新しい所だった
すぐ上にはバイパスが通り、脇には川があった
当時は周りはたんぼしかなかったが、今はマンションや住宅が所狭しとならんでいた
川はそんなに大きくはないが、子供が遊ぶのにはちょうど良かった
俺が小学校に入学する前の年、その川で子供が二人溺れて死んだ
深みに足を取られたらしい
それから川に入る子供はいなくなった
上流には河童伝説も残る川だ、やはりそれなりの理由もあったのだ
その子供が死んだ川の脇に、橋が掛かった
数年経つと、痛ましい事件は怪談となり、噂では夜になると子供の霊が出ると言う
それならばと、友達と小学校で待ち合わせ、肝試しに向かう事にした
どうせならと、川沿いの道を行く事になった
外灯もろくにない道をたわいもない話をしながら歩く俺と友達
二人で歩く足音がバイパスに反響していた
不意に友達が足を止めた
「お前、気付かない?」
正面を向いたまま友達が呟く
俺にはその意味がわかるわけもなく、否定を込めて首を横に振り……理解した
「やばいよな?」
そう呟く友達の横に、誰かいた
友達の立つ場所は、川岸の柵の脇
誰か立つには宙に浮いてなければいけない
俺にはその誰かは黒い影にしか見えず、ただ興味でまじまじと見つめてしまっていた
「帰るぞ」
友達は宣言すると、影を見ないようにして振り返り俺の腕を掴んだ
全力で走り出す俺達には、バタバタという足音とバチャバチャと濡れた足音が聞こえていた
学校に着いた頃には、もう足音は聞こえずにホッとしたのを今も覚えている
けれど、学校についてからが問題だった
せっかく肝試しに来たのに、アレだけでは物足りないと真偽のつかぬ影に文句を垂れていた俺に、友達は学校の中を巡ろうと言い出した

105 :カイト ◆MbiMEa9Ics :2010/08/20(金) 23:27:30 ID:r0WQmdB7O
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門は閉まっていて、当然開かない
従って俺と友達は校門をよじ登り、入ろうということに
昔はセキュリティシステムなど無いに等しいので簡単な事だった
そして門から侵入した途端、悲鳴が聞こえた
声は校舎の方から聞こえる
沢山の足音と共に、俺達の前に現れたのは白い服のお兄さん達……所謂暴走族
肝試しに来ていたらしいが、叫びながら校舎から逃げてくる姿は異様だった
「人魂だ!」
「幽霊だ、早く逃げろっ!」
と口々に言いながら、茫然とする俺と友達の手を引いて学校外へ脱出
十人ほどの族は、バイクのある場所まで走ってくるとようやく足を止めた
話を聞くと、校舎裏に肝試しに行ったらしい
その時に、一人がたまたま校舎を見上げると上から子供が落ちて来たと言う
そのまま目の前に落ち、消えたそうだ
落ちた姿を見たのはほぼ全員……
呆気に取られた彼らは、走り回る足音と、校舎の外に見えた人魂に怯えて走って逃げて来たと教えてくれた
校舎四階から子供が落ちた事件は地元では有名だったので、ほぼ間違いなく彼だろうという事になった
「子供の走る足音が怖かった」と一人が言ったのだが、俺と友達は足音はもしかしたら俺達ではないかと焦りもした
「待って、置いていかないで」と叫ぶ声も聞こえたそうだ
今にして思えば、川で溺れた子が呼んでいたのかも知れない
その日はもう帰る事になり、俺と友達は族のお兄さんに家まで送ってもらった

今に至るまで、小学校では不可解な死や事件が続いている
自殺や不審火、事故など……
まだ学校には何かが居座っているのだろう
もう一度夜の学校に行きたいとは思わないくらいに、夜中に肝試しをする連中の悲鳴を聞く事が多かった