第54話 おじさん

著:のらはり ◆9N4nUN7jEY  時刻:01:01:08

187 :のらはり ◆9N4nUN7jEY :2010/08/21(土) 01:01:08 ID:pIma+lm30
おじさん』

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これは昔、俺がまだ小学生校低学年の時の話。
あの頃は毎年地元で行なわれる花火大会が楽しみだった。

ある年の花火大会で、俺は両親から500円を渡されて好きなものを買ってきてよいと言われた。
花火大会の時には露店もいくつか出ていて、どちらかというと花火よりもそっちの方が好きだった。

そして500円で焼きそばとジュースを買って、はしゃぎながら両親の元へ走っていくと「ズデッ!」っと転んでしまった。
痛い、泣きたい、でもそれよりも焼きそばとジュースは無事なのか、そっちの方に気がいっていた。
「大丈夫?」と知らないおじさんに手を差し伸べてもらったが、焼きそばとジュースの無事を確認するとおじさんにお礼も言わず、
すぐ両親の元へと走っていき泣いた。

次の年の花火大会、やはり親からお金をもらい、好きなものを買って両親の元へ走っていきその途中で転んだ。
「大丈夫?」と言われて上を向くと、そこには前の年と同じおじさんがいた。

次の年、そのまた次の年も、そのおじさんは転んだ俺の前に現れた。
そしていつの間にか花火大会には行かなくなっていた。



188 :のらはり ◆9N4nUN7jEY :2010/08/21(土) 01:02:21 ID:pIma+lm30
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それから数年後、中学生になった俺は県内にある山を登った。
けして厳しいコースではなかったが、木の根に足をとられ、「ズンッ!」っと尻餅をついてしまった。

すると「大丈夫?」、何年ぶりかにその声を聞いた。
やはりあのおじさんだった。

そして昔のように差し伸べてもらった手をつかんで私は立った。
いちおう「あ、ありがとうございます。」とお礼は言ったものの、内心はビクビクしていた。
そしておじさんはそのまま山深くまで入っていった。

俺が転ぶ時に現れる。
あのおじさんは一体何者なのだろう。

そう思いながら顔を強張らせていると、一緒に来ていた弟も俺と同じように顔を強張らせながらこう言ってきた。
「にいちゃん・・・。あのおじさん、白目が無かった・・・。」
ふと記憶を辿ってみると、花火大会で何度か見たおじさんにはたしかに白目が無かった。

あのおじさんは本当に一体何者なのだろう。

【完】