第88話 無題

著:眠り猫 ◆aADG5oj6XQ  時刻:03:40:11

296 :代理投稿 ◆100mD2jqic :2010/08/21(土) 03:40:11 ID:9FhPPqS70
眠り猫 ◆aADG5oj6XQ 様 代理投稿

「無題」

高校生の時の話です。
その日も私はいつもの散歩道を愛犬のトリーを連れて歩いていました。
住宅地の中、友達の家の前を過ぎ公園を二つ横切り、
小学生の頃大好きだった男の子の家の前を、少し照れくさい気持ちで
小走りに通り過ぎようとした時です。
トリーが彼の家の前でピタリと立ち止まってしまいました。
「トリー、ここで止まるのヤダ。早く、行くよ!」と言っても
一点を見つめたまま全く動こうとしません。
その視線の先を追うと、そこは彼の部屋の窓。
昼だと言うのに硬く雨戸が閉められていて変だなとは思いましたが、とにかく
早く通り過ぎたかったので、多少無理に引っ張って彼の家の前を後にしました。
翌日、彼が自分の部屋で首をつって自殺した事を知りました。
もしかしたら散歩で通った時間に、彼が雨戸を閉ざした暗い部屋で
命を絶っていたのかもしれないと思うと怖くなりました。
あの時、トリーはただならぬ気配を感じ取っていたのでしょうか。
【完】