第15話 口笛が聞こえる

著:菊 ◆wNcSpqKeBg  時刻:22:17:13

57 :菊 ◆wNcSpqKeBg :2010/08/20(金) 22:17:13 ID:o7f7I/ys0
「口笛が聞こえる」1/2

私がまだ田舎にある実家にいた頃の話。

何が切っ掛けかは忘れたが、夜中に誰かが口笛を吹いているのに気がついた。
時間はたいてい午前1時過ぎ。一定の高さで息継ぎをする
様子もなく、10分〜20分間絶え間なく。それが毎日。
最初は鳥の鳴き声かとも思ったが、あんな声で鳴く鳥を聞いた事はないし
だいいち時間が時間だ。気味悪く思いつつ、布団を被って無視していた。

口笛に気がついてから、6日ほど過ぎた晩のこと。
夜中にふと目が覚めると、なぜか布団の上で正座している自分がいた。
目の前には赤い光を放つ、フットボール大の光の玉が浮いている。
ギョっとして思わず身構えると、発光体は赤い尾を引きつつ
窓の外へスーっと消えていった。 

その日の夜は、妹の部屋へ転がり込んだ。

58 :菊 ◆wNcSpqKeBg :2010/08/20(金) 22:18:40 ID:o7f7I/ys0
「口笛が聞こえる」2/2

発光体を目撃してからも、相変わらず口笛は聞こえてきた。
けれど、発光体を見た以外、他に何が起こったわけでもない。
“口笛が聞こえる”ことにも慣れ、しだいに気にも留めなくなっていた。

発光体を見てから10日ほどたった、酷く風の強い晩のことだ。
またしても、唐突に夜中に目が覚めた。
私はパジャマ姿で裸足のまま、真っ暗な林の中に立っていた。
木立の中、呻る風にのって口笛が聞こえる。
恐怖で混乱する頭をどうにか落ち着け辺りを窺うと、どうやら
実家のすぐ隣にある森の中にいるらしい。
走り出したい気持ちを抑えて、そろそろと家へ向かった。
走ったら事態が急展開してしまいそうで、恐ろしかった。
ひたすら足元を見て歩いている間、口笛はずっと私の周りを巡っていた。

その晩を最後に、口笛が聞こえることはなくなった。
けれど、もしもまた聞こえたらと思うと、実家に帰省するのが恐ろしい。
次にまたあの口笛に呼ばれた時、もしも目が覚めなかったら
私はどこに連れて行かれるのだろうか。

【完】