第63話 うずくまる

著:宿題終わったか ◆MflE5ZO0i6(宿題終わったか ◆ZzqpUXstowNJ,宿題終わったか ◆plQ1MzbtvQFA)  時刻:01:39:27

216 :宿題終わったか ◆ZzqpUXstowNJ :2010/08/21(土) 01:39:27 ID:9FhPPqS70
【うずくまる】 1/3            代理投稿 ◆100mD2jqic

「この間、お前を連れて行った里山、あるだろ。
 そう、昼間なら女子供がスニーカーでも上れる山。
 あそこ、トレーニングに使ってるんだよ。本修行の前の体作りにさ。」
「あー、あそこかあ。確かに本道は女子供でも余裕で登れるけどさ。
 お前が連れてった狭い所は本っ当に、幅30cmもない崖っぷちで、
 通り過ぎるのすら厳しいよなwもう二度と行かねーよw」
「あそこで若い頃、やられちまったんだよ。」
「ん?お前が?だせえwwww」

トレーニングは雨の日も欠かさない。行(ぎょう)の前は昼夜を問わず行う。
…ああ、前にレンジャーの人の話を聞いた事があるが、そんな感じ。
ひたすら山の中を彷徨(さまよ)い、気配を殺し、迅速に移動する。
装備するのが銃器ではなくて、せいぜいロープと小刀、数珠程度、
って違いだ。後は気合い。
ただ、ちょっとその日は凄い雨だった。雨粒で地面が削れる程度には。
ひたすら走り、木を登り下りして、藪をこいで、例の30cm幅の所に来た。

その先に、うずくまってる女がいた。

足でもくじいたのか。
近寄ろうとした。

217 :宿題終わったか ◆ZzqpUXstowNJ :2010/08/21(土) 01:40:26 ID:9FhPPqS70
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強く、腕が引っ張られる感覚がした。
「気にしたらいかん!」
壇中(だんちゅう)が沸き立つような感覚、知らぬ振りでその先を進む。
その後崖を登り、やりすごし、また走る。走りながら、六根清浄(ろっこんしょうじょう)を唱える。
ざわめく陰。前を覆う深い闇。何かをどけながら走る感覚。邪魔が。
邪魔するものだからジャマー、ってなあ。
ぃでっ!なんでそこで掌底(しょうてい)を後頭部に入れるかな。ひでえな。
まあねえ。いくら雨の中ったって、変な闇だった。普段と違って、先が
見えないんだな。雨の中でもあるはずの気配、って奴が。そん代わり、
さっきの「女」の気配がある。

…女…?

俺は、なんで女だと思ったんだ。男では、なかった。小さかった。
では、着衣は?柄は?髪型は?年恰好は?
まてよ、なんであの30cm崖で俺は「先に進めた」んだ?
鳥肌が、一気にたった。立つと同時に、斬った。印なんざ組むヒマもねえ。
斬った。嫌になるくらい斬った。
そして、恥ずかしい話だが、逃げた。

218 :宿題終わったか ◆ZzqpUXstowNJ :2010/08/21(土) 01:41:09 ID:9FhPPqS70
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翌日から一週間ほど、俺は高熱を出して寝込んだ。
お師(し)さんが珍しく来て、がっつりウマイ凝った手料理を作ってくれた。
これ作ったのが女で、しかも若かったら、その場で嫁にするレベルw
「おまえ、会ったな?」
「はい」
「そいつは斬るものじゃないんだ。これで限界が判っただろう。しばらく大人しく寝とけ」
「先生、だけど、あれを放っておいたら他の人にも害が出ます」
「縁(えにし)がなければ出会わんよ。それに、黄昏過ぎてから山に入るのは
 自業自得だ。人には出来る限界がある。」
「今回、お前が出合った理由を考えておくんだな」
と言って、帰って行った。

ああ、女?
さあねえ。たぶん、今頃、どこかに出てるんじゃねえかなあ。
山に出るとは限らないからなあ。
よく目を凝らしてみると、都会にも、いろいろ、なあ。出てるからなあ。