第71話 縁

著:無月 ◆rke4WFVdV6  時刻:02:20:12

242 :無月 ◆rke4WFVdV6 :2010/08/21(土) 02:20:12 ID:xDOQeNBMO
【縁】
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仕事先の縁で知り合った男性。
割とカッコイイし、性格もよし。アウトドア好き、中堅どころで収入もしっかりしてる。
タバコは時々、お酒は毎日ビール一本という、男の自分から見てもいい人なんだが、何故か女性と縁がない。というか、長続きしない。
付き合い始めは女性側から告白されたり、彼から申し込んだりだが、別れる時は100%彼女から振られる。
浮気をしたわけでもないのに「女性の影がある」と言われたり、デートの最中に「寒気がする」「気味が悪い」と言われたり。
なので、30歳半ばにもなって、未だに独身だった。
そんな折り、彼も釣りが趣味という話になって、一緒に出掛けることになった。
彼の車で行くことになり、待ち合わせ場所に向かったところ——彼の後ろに誰かが居る。
年配の女性が、彼の後ろから睨むようにこちらを見てる。
二言三言会話してから、恐る恐る「そちらの女性も一緒に行くんですか…?」と聞くと、「は?女性?」と彼が振り向く。
その時にはもう女性の姿はなかったが、今見たものが幻覚とも思えなかった。
その日は何事もなく釣りを終え、それからしばらく変わったこともなかったため女性のことをすっかり忘れていたのだが、
たまたま足を運んだアウトレットモールで、デート中の彼と鉢合わせた。

243 :無月 ◆rke4WFVdV6 :2010/08/21(土) 02:22:47 ID:xDOQeNBMO
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「こちら、僕の彼女」と照れながら紹介する彼の後ろで、以前見た女性が凄まじい表情で、彼女を睨んでいる。
全身に鳥肌が立ち、冷や汗を流す俺をよそに、二人は連れ立って人混みに消えて行った。

翌々週、顔を合わせた彼は、案の定振られたといって憔悴しきっていた。
勘違いかも…と思いつつも思い切って女性のことについて聞いてみると、見て欲しいものがある、とのこと。
次に彼が職場に顔を見せた時、彼は一枚の写真を手にしていた。
この女性か、と聞かれて頷くと、彼はその場にしゃがみこんでしまった。
「母だ……」
母子家庭で、母一人子一人だったためか、過保護な人だったから…と言い、肩を落として彼は帰って行った。

それから一年。次に出会った女性には包み隠さず現状を話した上で、付き合うことにしたらしい。
先日、彼女とも話す機会があったのだが、「視線は感じるし、寒気もするし、部屋に居ると物が落ちたりするけど…自分に実害がないから平気」と言い切っていた。

肝の太い女性だから良かったのか、今秋、結婚だそうだ。

【完】