第73話 屋敷神

著:暁降 ◆SeWejTxI7g  時刻:02:29:38

248 :暁降 ◆SeWejTxI7g :2010/08/21(土) 02:29:38 ID:HCeY77LJ0
【屋敷神】 1/2
家神や屋敷神と呼ばれる、庭などに祀られている祠を知っているだろうか?
田舎の家ではよく見られるが、都会のほうだと戦前からあるような古い家や大きな農家だと見られるようだ。
稲荷や有名どころの神を祀っている家、地域で名の知られた神を祀っている所が多いと本で知った。
屋敷神、という呼び名も本で調べてはじめて知った。

なぜそんなことを調べたかというと、我が家の屋敷神はどうも他とは違うらしい、と感じたからだ。
どうやら我が家の初代(と言っても分家したのは幕末だから当代で5代目なのだがw)が個人的に祀り始めた神らしい。
祀っているのは神社などで祀られている神じゃない。

蛇だ。

初代が分家し、今の土地を本家から貰ったばかりの頃、この辺りは蛇原と呼ばれていたそうだ。
そこら中に蛇が住み着いており、草を刈れば蛇が出ると言うまさに文字通りの薮蛇状態だったことが地名の由来とのこと。
畑を作るにもなんにしても、何にしても、そもそも危なすぎてまともに暮らせない。
そこで初代は「祀る代わりに家人に危害を加えず、姿を見せないようにしてくれ」と祈って蛇を祀る事にしたらしい。
先代から聞いた話だからどこまで正しいのかは分からない。
それでも現に今は蛇の姿は見られず、かつて蛇原と呼ばれていた面影はない。
しかし、近所の人の話を聞く限りでは昔ほどではないにしろ、今も蛇は多くいるらしい。
それだけなら、まあ変わった神を祀っているな、で終わるのだが……。


249 :暁降 ◆SeWejTxI7g :2010/08/21(土) 02:31:12 ID:HCeY77LJ0
2/2
祀っているおかげなのか我が家で蛇を見ることはまずないのだが、唯一、家族に姿を見せる蛇がいる。
それはうちの蔵に住み着いている蛇だ。
とは言っても、俺は見たことはないし、滅多に姿を現すことはない。
最近では見たことがあるのは俺の祖母と兄だ。
祖母は蔵の蛇を見たその年に、兄は翌年に入院する大怪我をした。
これだけならただの偶然と思うだろう。
だが、必ずある時にこの蛇は…いやこの蛇ではないのかもしれないが…皆に姿を見せる。
抜け殻と言う形で。

それは代替わりの時。
前回は先代が亡くなる前年、その前は先代の母が亡くなる前年、更にその前は先々代が亡くなる前年と言ったように。

怪我も代替わりもただの偶然なのかもしれない。
しかし、他の年に抜け殻が出ることはなく、姿を見せることもない。
俺はいつあの蛇がその姿を誰の前にどのように現すか、不安に思いながらもいつか来るだろうその時を待っている。
一風変わった由来を持つ神を祀りながら。

【終】