第79話 先祖の話

著:宿題終わったか ◆MflE5ZO0i6(宿題終わったか ◆ZzqpUXstowNJ,宿題終わったか ◆plQ1MzbtvQFA)  時刻:02:59:00

269 :宿題終わったか ◆plQ1MzbtvQFA :2010/08/21(土) 02:59:00 ID:9FhPPqS70
【先祖の話】 1/2             代理投稿 ◆100mD2jqic

幸せな、若いカップルがいた。
祝言(しゅうげん)を挙げ、村でも評判のおしどり夫婦だった。

ある晩、嫁が針仕事をしている時、夫が灯(あかり)を持って席を立った。
「あら、どちらへ?」「はばかり(トイレ)へ。」
嫁は生まれてくる子供のために、針仕事を進める。
"おくるみ"を作り終え、ふと顔を上げる。先ほどより、闇が深くなったようだ。

…遅い。もう半刻は過ぎようか。
腹を下しているにしても、いくらなんでも遅くないか。
嫁は”そろりそろり”と立ち上がり、自らもトイレに行った。
「あなた?」ノックする。返事がない。
「あなた?開けますよ?」
ガチャリ。

いない。

あるのは格子つきの小さい窓、1畳にも満たぬ狭い場所、蓋も閉められたまま。
人の隠れるような場所はない。心もとない灯(あかり)でも、それが見て取れる。
嫁は慌て、家人を呼んできた。近隣のものも出てきて、旦那の
捜索が始まった。山狩りもした。何日も。何日も。
石部金吉(いしべきんきち)の旦那の事、女と連れ立って逃げたとは考えづらい。
だが、結局、旦那は見つからず、嫁は子供を一人で育て、やがて子供が成人した。

270 :宿題終わったか ◆plQ1MzbtvQFA :2010/08/21(土) 02:59:58 ID:9FhPPqS70
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子供の祝言が決まり、あわただしく支度を進めていた晩。
旦那が戻ってきた。

いなくなった、20年前の姿、年恰好のままで。
「…あな…た…?」
「どうしたい、そんなびっくりした顔で。…ん?お前、疲れてるようだよ。
 精根(せいこん)つくしたか、"おくるみ"は明日にでもしておきなさい。」

大騒ぎになった。
旦那曰(いわ)く、彼の中では、はばかり(トイレ)に入って、出た程度の時間しか
経っていないそうだ。
村の駐在さんも出てきたが、旦那は20年前のあの時のまんま。
どう調べても、旦那本人であるとしか認められなかった。

子供の祝言には、旦那も一緒に出たそうな。
その後、二人はゆるゆると仲の良いまま暮らして行き、
嫁が亡くなった年の、四十九日の翌朝、旦那が息を引き取っているのが
見つかったそうな。
往生した姿は、嫁と釣りあう年恰好になっていたという。