第94話 堤防の男

著:ガタロー ◆gVTHFJ1ngI  時刻:03:58:55

312 :ガタロー ◆gVTHFJ1ngI :2010/08/21(土) 03:58:55 ID:ypNpk3dH0
【堤防の男】
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ある初夏の晩、俺は友達と二人で少し遠い堤防に行き、夜釣りを楽しんでいた
その日は魚がぼんぼんと釣れ、今日は大漁だなとハイテンションで友達に話しかけた
しかし、何故だか友達がテンションが低く、「うん…」とか「ああ…」としか言わない
釣りに集中してるのか思えば、その動きも何やら鈍い
何かおかしいと思いながらも、魚は連れ続けるのでこちらは釣りに集中する事にした
それから10分ほどして、いきなり友達が

「ああ、だめだ!」

と言い出した。
先程からの友達の反応もあり、俺は釣り糸でも絡まったのかと無視して釣りを続けようとすると

いきなり釣竿を持ったまま体を翻して俺に近づいてきた

「早く行こう!車!!」

俺が何がなんだか分からずに戸惑っていると、

「いいから、早く!!!」

友達の気迫に押され、俺は何も持たず友達と一緒に車に乗り込んだ
何事か聞く俺を無視してしばらくし、友達が口を開いた。

313 :ガタロー ◆gVTHFJ1ngI :2010/08/21(土) 04:00:04 ID:ypNpk3dH0
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「あれ、見えるかな? 俺たちが釣ってたとこ」

友達が指差す方向に目をやると、いつの間にか男が一人、堤防に立っていた
この一方通行の堤防の先、俺達とすれ違わないと居れないはずの場所に。

「あれ、ヤバイよ。歩いてきた」

「どこから?」

「 海 の 上 ! 」

友達が言うには、最初ここに来たときに、海の遠くで光る点があったそうだ
漁船かとあまり気にせずに釣りを始めたが、その光が徐々に近づいてくるにつれ、
それが人間だという事が分かったそうだ。
その男は海の上をゆっくりと歩いてこちらに向かってきており、恐ろしくなったが
俺が釣りを楽しんでおり、興を削がない様に何も言わなかったそうだが、
かなり近くまで来たので我慢できずに車に戻ったとの事。

その男はまだ竿や魚が残っている俺達が釣っていた場所にたたずんでいた
釣り道具が惜しい気がしたが、明日の午前中に取りに行く事にし、男がこちらに来る前に
堤防を出発した。

翌日、その堤防近くで身元不明の死体があがった。
俺達は魚を食う気になれず、そのまま捨てた

【終】